「営業で使える」という触れ込みで、昔からさまざまな心理テクニックが語られてきました。ミラーリング、Yesセット、沈黙などです。まるで「営業の必殺技」みたいな感じです。思わず「それって本当に効果あるの?」と叫んでしまったことのある人もいるのではないでしょうか。
はじめに
今回は、営業でよく語られる心理テクニックを紹介しつつ、実際にどうなのかといったことも検証してまいりたいと思います。
ミラーリングは本当に効果があるのか?
ミラーとはもちろん鏡のことです。
ミラーリングとは
相手の姿勢・動作・話し方と自分の姿勢・動作・話し方を「鏡のように」合わせることで、親近感や信頼感を生むとされる技法。
科学的根拠
社会心理学では「同調行動」として研究されているようです。
例えば、被験者が相手の動作を無意識に模倣すると、相手の好意度が上がり、模倣しないと好意度は上がらないという実験結果もあるのだとか。ミラーリングは科学的に「効果がある」と確認されていると言えます。
営業での具体的な使用例
例1:姿勢のミラーリング
顧客が椅子に軽く前傾して話しているなら、こちらも少し前傾します。
顧客「この部分がちょっと気になっていて…」
営業(同じ姿勢で)「そこ、気になりますよね。実は…」
→ 姿勢が合うことで「この人は自分の話を理解している」と感じやすいと言われています。
例2:話すスピードのミラーリング
顧客がゆっくり話すタイプなら、こちらもゆっくり話します。
顧客「急ぎではないんですが…」
営業「承知しました。では、順を追ってゆっくり説明しますね」
→ テンポの一致は安心感を生むそうです。
例3:言葉の選び方のミラーリング
顧客が「価格」「費用」ではなく「コスト」という言葉を使うなら、こちらも「価格」「費用」ではなく「コスト」を使います。
顧客「コスト面が気になっていて」
営業「コストを抑える方法としては、こちらが有効です」
→ 語彙の一致は「価値観の一致」として認識されるのだとか。
営業での注意点
やりすぎると「不自然」「真似されている」と思われて逆効果です。ポイントは「無意識レベルの軽い模倣」にとどめること、つまり「ほどほどに」です。
Yesセットは人を動かすのか?
Yes(イエス)は「はい」という肯定の言葉です。
Yesセットとは
「はい」と答えやすい質問を連続させ、その流れで本題のイエス、すなわち肯定の言葉を引き出す技法。
科学的根拠
Yesセットは「一貫性の原理」に基づきます。「一貫性の原理」というのは「人は一度肯定の流れに入ると、その一貫性を保とうとする傾向がある」ということだそうです。
ただし、最新の研究では「Yesセットは簡単な意思決定には有効だが、高額商品や複雑な判断には効果が薄い」なんてことが分かっているようです。ありゃりゃ、です。
営業での具体的な使用例
例1:導入のハードルを下げます
営業「資料を見るだけなら大丈夫ですか?」
顧客「はい」
営業「では、5分だけ概要を説明してもよろしいですか?」
顧客「はい」
→ 軽いYesを積み重ねれば、会話の流れを作れる、かもしれません。
例2:顧客の状況確認でYesを引き出します
営業「今、業務量が増えているとおっしゃっていましたよね」
顧客「はい」
営業「その負担を減らしたいというお気持ちですよね」
顧客「はい」
→ 顧客自身の課題を言語化させる効果はあるようです。
例3:ただし、クロージングには使わないほうが良いでしょう
営業「じゃあ契約しますよね?」
→ これは逆効果となる可能性が高いです。Yesセットは軽い承諾に使うにとどめておきましょう。もしかすると勢いで「はい」と応じてくれるかもしれませんが、やめておいたほうが良いです。
営業での有効性
Yesセットは「軽い承諾」には効くが、本質的な意思決定にはあまり影響しないと言えます。
フット・イン・ザ・ドアは営業で使えるのか?
直訳すると「ドアの中の足」。つまり、ドアの内側に足を入れる動作のことです。セールスマンが訪問先でドアの内側に足を入れつつ話し掛け、徐々に商談に入っていく様子が由来だそうです。
フット・イン・ザ・ドアとは
小さな依頼を承諾させ、その後に大きな依頼を通す技法。
科学的根拠
実験では、小さな依頼に「はい」と答えた人は後の大きな依頼にも応じやすくなるという結果が出ているそうです。
営業での具体的な使用例
例1:小さな依頼 → 大きな依頼
営業「3分だけお時間いただけますか?」
(3分後)
営業「では、もう少し詳しく説明してもよろしいですか?」
→ 最初の小さなYesが大きなYesにつながるわけです。
例2:無料トライアル → 有料契約
営業「まずは無料で使ってみませんか?」
(使用後)
営業「実際に使ってみてどうでしたか?」
→ 体験が承諾のハードルを下げます。
営業での有効性
そもそも営業の現場から生まれた技法なので、営業でも大いに応用可能だと言えます。
とは言え、最初の小さな依頼が不自然だと逆効果になるので気をつけましょう。 例えば「5分だけ話を聞いてください」と言いながら実際は長くなると予想される場合は、最初の依頼が「軽い」と認識されません。また、忙しそうな人に「ちょっとだけ時間ありますか?」と声をかけても「配慮がない」と感じられてしまいます。
沈黙のテクニックは本当に効くのか?
人は多くの場合、沈黙が続くと不快に感じ、その不快感を解消しようと話を続けてしまいがちです。営業担当者が条件や提案を提示した直後に黙ることで、相手は沈黙に耐えられず、譲歩したり、さらに良い条件を提示することがあるそうです。
沈黙は処理時間
営業で「沈黙は武器」という言葉がよく使われるそうです。認知心理学では、沈黙は相手の情報処理を促す時間とされています。人は沈黙が続くと「何か言わなければ」と感じ、より本音を話しやすくなるのだそうです。そういうものらしいです。
営業での具体的な使用例
例1:価格提示の後に沈黙。
営業「こちらのプランは月額3万円です」
(3秒沈黙)
→ 顧客が自分の中で価値と価格を比較し始めます。
例2:質問の後に沈黙。
営業「この機能、御社の課題解決に役立ちそうですか?」
(沈黙)
→ きっと、顧客が本音を話しやすくなります。
例3:顧客が考えているときに口を挟まないで沈黙。
顧客「うーん…」
(沈黙)
→ 顧客の思考を妨げないことで、信頼感が増します。
営業での有効性
沈黙は「相手の思考を促す」ために効果的です。とは言え、沈黙が長すぎると不快感を生むので、3〜5秒の短い沈黙にしておくことが肝心です。
まとめ
ミラーリング、フット・イン・ザ・ドア、沈黙は比較的有効だと言えます。軽い承諾には効くが、重要な意思決定には弱いYesセットは、効果が限定的のようです。
心理テクニックは科学的に有効なものも確かにあり、科学的に裏付けられた人間の行動原理に基づいているものが多いです。
とは言え、魔法でも必殺技でもありません。会話は必ず例文通りにいくとは限りませんし、人の反応もさまざまです。どのテクニックも頭の片隅にとどめておくのが良いのかもしれません。

